本年度は最終年度であるので、これまでの研究の総括につながるような活動に取り組んだ。具体的には、引き続き、「責任とリスク」にかかわる思想史や「法と経済学」にかんする文献渉猟、および先行研究の理解に努めるとともに、いわば暫定的な総まとめとして、論文の執筆、学会の企画運営、学会報告を行った。 これらの研究活動の成果には、次のものがある。まず、井上達夫編『岩波講座哲学第10巻社会/公行性の哲学』の第II部第2章として、「リスク社会における公共性」を執筆し、「リスク社会」にいたるまでの法思想史的総括と、選択可能な政策指針としての(1) 熟議民主主義、(2) リスクの個人化と市場化、(3) リバタリアン・パターナリズムの各々にかんして検討を行った。また、『法の理論』28号にて、昨年度執筆の論文「予防原則と憲法の政治学」に対してなされた高橋文彦教授・井上匡子教授のコメントへの応答論文を公表した。さらには、11月に開催された日本哲学界学術大会において、全体企画「リスク社会と法」を企画・運営し、基調報告」リスク社会と法-提題・論点・展望」を行った。 以上の研究を通じ、計算不可能なリスク(または「ナイトの不確実性」)に対する経済理論の脆弱性を再確認するとともに、それらをめぐる政策には「法の支配」の貫徹が決定的に重要となるという見通しを得た。また、「予防」の名の下に行われる様々な施策の間には理論上・実践上の慎重な区別が必要であり、これが新たな研究課題となる。
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