研究概要 |
本研究の目的は、コモン・ロー体系の基礎をなすことになる民事事件(主として土地訴訟)における国王裁判の諸手続、とりわけ訴訟開始のための重要な国王令状の成立過程において、教会法ないし教会人が果たした役割を実証的に解明することにある。この目的を達成するために、本年度は、『ロンドン司教ギルバート・フォリオットの書翰集』(The Letters and Charters of Gilbert Foliot)および刊行中の『イングランド司教文書集』(English Episcopal Acta)等の公刊史料を主たる素材として、教会人(高位聖職者)の発した文書(書翰・証書等)の中から、初期コモン・ロー裁判手続の原型となる法理論および裁判実務を抽出することを試みた。これにより、従来法理論面で指摘されるにとどまっていたコモン・ローに対する教会法の影響を、裁判実務レヴェルで少しく具体的に明らかにすることができた。 公刊史料の検討作業と並行して、写本史料の分析・検討も行った。平成19年8月には、イングランドに出張し、オクスフォード大学ボドリー図書館に所蔵・保管されている『聖俗の訴訟手続に関する論考』(Diversarum curiarum diverse sunt consuetudines)(MS Rawlinson C.775)等を閲覧した。本写本については、その後解読を進めているが、刊本(Publications of the Selden Society, vol.60)においては、ケンブリッジ大学ゴンヴィル・キース・カレッジ図書館にのみ写本が存在するものとされているが(Caius College, MS. 205)、ボドリー図書館所蔵の写本も少なくとも途中まではほぼ同一の内容であることを確認することができた。
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