研究概要 |
本研究の目的は、12世紀後半イングランドにおける俗権と教権の権力闘争の過程の中で、コモン・ロー成立の法的・歴史的要因を明らかにすることにある。すなわち、コモン・ローの成立を教会法理論との対抗関係あるいはその影響下に捉え直すこと、そのことによって、従来もっぱら封建裁判権あるいは地方的裁判権との対抗関係の中で議論されてきたコモン・ロー成立史を根本的に見直すこと、これが本研究の目的である。 本年度は、この目的の実現に向けて、国王訴訟手続と教会訴訟手続の比較検討を、裁判実務書の分析を通しておこなった。具体的には、主として、『聖俗の訴訟手続に関する論考』(Diversarum curiarum diverse sunt consuetudines)の残存1写本であるオクスフォード大学ボドリー図書館蔵のMS Rawl inson C.775(pp.127-150)を解読・検討した。本写本は、(1)序、(2)教会訴訟手続、(3)世俗訴訟手続から構成されており、刊本の元となっているケンブリッジ大学ゴンヴィル・キーズ・カレッジ図書館蔵の別の写本(Gonvill&Caius College,Cambridge,205/111,pp.409-429)と構成は同じであるが、細かく見ていくと、後者に収められている教会刑事裁判の部分、ローマ教皇庁宛の委任書翰が欠落していること等、総じて簡略化された記述となっていることが判明した。
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