本研究は、アングロ・ノルマン教会法学について最初に光を当てたクットナー等の研究の中で紹介されているイングランドで作成された教令集や教会法学文献等を基礎として、(1)12世紀全体を視野に入れ、この時期のイングランドで作成された教令集や教会法学文献等の分析を行ない、(2)これを通じてアングロ・ノルマン教会法学の形成および展開を明らかにし、(3)さらにその法理論の特徴を、成立期コモン・ローとの相互関係を視野に入れながら、明らかにすることを目的とするものである。本年度に実施した研究の成果については、以下に示す通りである。 第一に、クットナー等による研究の整理を行なった。研究史の整理は今後も継続的に行なうこととしているが、本年度はフレーバーの研究を中心に、とりわけ「聖職者の特権」と「二重刑罰禁止」に関する、カノン法(ボローニャ学派とアングロ・ノルマン学派)とコモン・ローの三者の相互関係・論点を整理することができた。第二に、以上の研究史整理を踏まえ、アングロ・ノルマン教会法学関連作品の中でも最も古いとされている1160年代作成のSumma De multiplici iuris divisioneについて調査を開始した。この作品については、研究分担者との研究会も開催して-この作品内で引用されている『グラーティアーヌス教令集』等にも検討を加えながら-その内容分析と検討を慎重に進めており、とくに「聖職者の特権」と「二重刑罰禁止」に関する初期のアングロ・ノルマン学派の法理論の解明が期待できる。第三に、研究史整理を踏まえて重要な教会法学関連の写本を抽出し、その一部については、ロンドンの英国図書館やランベス宮殿図書館、オクスフォード大学ボドリアン図書館に出張して調査・閲覧することができた。
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