当初の計画に沿って、基礎的資料・問題意識を共有する内外の基本的文献を集め、その解析を進めた。とりわけ、西洋近世後期を対象にして、最終的にはヘーゲルによって集約され先鋭化されていく「個人と国家」の連関付けの近代思想を追った。そして、ヘーゲルの背景を成す19世紀初頭のドイツ改革期の諸思想、それを踏まえて、またそれによって形成された近代的国家の現実と向かい合いつつ、ヘーゲルが構築していった独自の「国民主義」を考えた。この関連で、シヴィック・ヒューマニズムに焦点を当て、アメリカ独立戦争期の思想やフランス革命期における、「自由」と「国家」の新しい結びつけについても考察した。 最終年度を迎えようとしているので、これまでの研究の成果をまとめるべく、『<政治>の生誕-マキァヴェッリ・ヘーゲル・ヴェーバー』(仮)と題する著作原稿の作成を進め、本にして320頁の分量のものにまとめた。ここでは、古代ローマ以来のパトリオティズム・国民主義がマキァヴェッリより前にはどういうものであり、それがマキァヴェッリにおいてどう再生し、さらにその思考が(マキァヴェッリのイタリアと同様な分裂状況にあった)ドイツ19世紀に、ヘーゲルやヴェーバーにおいてどう受け止められていったか、という観点から、本研究の主題をまとめようとしている。今後は、最終年の2010年度において、この原稿をさらに磨き上げ、出版に具体化しようと考えている。 2009年度にはまた、日本における国家意識・国民主義についても考察を進め、それを法解釈の技法の継受と自己展開という観点から通史的にまとめた。そこではとくに、本居宣長の文献学的手法とその根底にある思想、明治初期の法継受の態様が重要な考察対象であった。この成果は、11月に出版した『法解釈講義』(東京大学出版会)において発表した。
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