本研究においては、鎌倉幕府の裁判所が作成し訴訟当事者に対して発給した判決文書(関東・六波羅・鎮西における裁許状=下知状)の正文および案文(写し)を主な素材として、次に示すおおよそ二つの内容に関して調査および検討を試みた。 すなわち、第一に、判決の内容が記される部分を網羅的に抽出するとともに、第二には、判決の内容が記される部分において明らかにされている「判断」(=判決の趣旨)および「判決の理由・根拠」とは、いかなる内容のものであるのか、その全体像を把握するための作業を行った。 後者の課題に関しては、前者における作業によって得られたところの、個々の判決の内容が記される該当部分に関する豊富なデータを基にして、研究代表者はおおよそ次のような関心において分析・検討を試みた。その関心とはすなわち、判決の内容は敍述上、いかなる構成が採られることによって記されているのか、また、判決の趣旨はいかなるかたちで記述されているのか、さらに、判決はそれを支える根拠として、いかなる法規範あるいはその他の理由を採用しているのか、という関心のもとに、判決の内容が全体として、いかなる程度、その論理的一貫性が担保され得ていたのか、というものである。 このことから、判決の趣旨(判旨)が構成される場合には、いかなる論理的形式が採られることにより、判旨の内容が正当化され得るための工夫が施されていたのか、という検討課題を設定した。従って、かような要請に応えるためには、個々の判決文書において判決の内容が記載される部分に関する緻密な解読作業が必要となる。 本研究課題においては、判決の趣旨はもちろんのこと、判決理由に関してもあわせて総合的に把握することを目標にして、判決理由中に記される根拠の内容に関する正確な理解を得るべく、該当部分に関する仔細な解読作業を試みるに至った。 そして、以上のような判決文書に関する基礎的な検討作業の成果を明らかにするために、一つの実験的な試みとして、判決の内容・判決の理由・判決の根拠とされた法規範などに関する、簡易なかたちでのデータ・ベース化の作業も進めるに至った。本研究課題における研究成果の一部に関しては、後述の「4.研究成果」において述べることにする。
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