昨年度は先進国における行政上の実効性確保手法についての基礎的な比較法研究に多くの時間を投入した。具体的には、アメリカの民事罰(civil penalty)、ドイツの秩序違反法、フランスのアストラント等について研究を行った。その結果、わが国において、行政上の実効性確保手法が狭く限定されていること、金銭的なディスインセンティブを用いた実効性確保手法が未発達であることが明らかになり、わが国における行政上の実効性確保方策を強化する上での最大の課題は、金銭的なディスインセンティブを用いた手法の拡充であることについて確信を持つことができた。 実務面では、昨年度は、内閣府の独占禁止法懇談会や金融庁の課徴金制度に関するワーキンググループに参加し、課徴金制度の拡充等について、実務的視点を交えて多角的に議論する機会を得ることができた。そして、本年の通常国会に、課徴金制度の拡充等を内容とする独占禁止法改正案、金融商品取引法改正案が提出されるに至った。しかし、このような金銭的なディスインセンティブを用いた手法の拡充は、他の分野においても応用可能であるはずであり、昨年度は、課徴金制度を拡充することが可能な分野にいかなるものがあるかについての検討も行った。その結果、罰則が十分に機能していない分野において、違反行為の「やり得」を抑止するために課徴金制度が有効に機能するのではないかと思われる分野が多くみられた。たとえば、違法建築が蔓延し、行政代執行がほとんど機能しない建築行政の分野においては、罰則を用いるよりも、違法建築により生じた経済的利益を換算し、それに上乗せした金額を課徴金として課すこととし、課徴金の納付を完了検査の要件とすることが有効ではないかと考えられる。どの程度の上乗せが適当かについてまで詰めることはできなかったが、課徴金制度を大幅に拡充する余地があることを明らかにできたことは収穫であった。
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