本研究は、ロシアにおいて1993年憲法制定後、紆余曲折を経ながら成立・展開を見せている地方自治制度を、連邦体制の見直し・再集権化の進行するなかでの変容・展開過程を研究するものである。本年度は、憲法裁判における地方自治の扱われ方をフォローし、憲法判例の蓄積が地方自治の確立に果たしてきた役割を明らかにする作業を進め、併せて、ヨーロッパ地方自治憲章の受容過程の検討、ヨーロッパ語をロシア語に翻訳する作業が、ロシアの地方自治のあり方との関連でどのような意味をもつかを検討した。後者については、ロシア独自の固有性がありそうだとの感触を得ているが、いまだ結論づける段階にはない。現在、英ロ和によるこの憲章の対訳を作り、ロシア語への翻訳と憲章受容の過程でどのような議論があったかを調査検討を進めている。 また、短期間ではあったが、モスクワを訪れ、憲法制定過程における地方自治問題の扱われ方に関する資料、文献の調査・収集を行った。同時に、今回は事前の連絡・調整不足から、自治体訪問、政府機関訪問はかなわなかったが、研究者との討議、次回訪問時の調査に関する援助の確認などを行うことができ、図書館、書店等での新しい文献の収集にも成果があった。 08年3月の大統領選挙で、プーチン体制が形を変えて継続することになり、連邦構成主体の自立性が大きく変容する「再集権化」の下、各構成主体に差異があった地方自治制度は、今後「統一化」「画一化」されていくと考えられ、それが当面は自治体レベルでの「自治機能」の強化につながる、一方で「集権」化が進み、そのもとで「地方自治」が強化されるという矛盾的傾向が現象する。それが、真に地方自治の確立として実を結ぶかどうかが、次年度の課題として浮かび上がってきた。
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