研究代表者の澤野義一は、国民保護法に基づく自治体の国民保護計画が、武力紛争時の住民保護に関するジュネーブ条約追加議定書や、武力紛争時の文化財保護に関するハーグ条約等の国際人道法の理念に適合した形で策定、実施されているかどうかについて、105の自治体にアンケート調査を行った。ほとんどの自治体は国民保護計画を策定しているが、国の方針に沿った内容で独自性に欠け、国際人道法の住民への周知等についても不十分である。 研究分担者の魏栢良は、原子力商業利用における住民保護の実施状況について、とくに原発の外部からの危険の防御システムの現状把握のためアメリカとカナダの主要な原発を調査した。カナダでは、陸地からの直接的な人的攻撃に対しては強力な保護策がなされているが、空からのミサイル等の遠隔操作による攻撃に対する対応策については確認することは困難であった。アメリカでは、前者について対応の相違が若干あるが、ほぼ同様のことが指摘できる。しかし両国とも、国際人道法の責務を厳格に果たしているとはいえない。 連携研究者の糟谷英之は、今後の国際刑事裁判所(ICC)の運営に大きな影響を与えるであろうICC規程再検討会議を調査するため、訪問先のニューヨークでは国連職員と面談し、「侵略の罪」の定義に関する作業部会の議論が最終段階を迎えていることを確認した。さらにニューヨークおよびワシントンDCにあるICC関連のNGOおよび研究機関を訪問し、ブッシュ政権のICCに対する対応へのアメリカ国内での批判が学界その他で大きな流れになっており、近い将来アメリカの対応に変化がみられるであろうとの認識がえられた。
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