平成21年度は、「ガバナンス規制」にかかわる論点の整理とまとめをかねて、民族自決権の課題を、国際法上の権利としての確立経緯をふまえて、現在問題となっているコソボ独立問題や旧ソ連での分離独立の動きを評価した。国際法上、人民の自決権が権利として確立するにあたっては、政治学や社会学で言われる「民族」とは異なり、「植民地」という確定した領域に居住する人々の集合体に権利が与えられたことが重要であった。そしていったん独立を果たすと、主権国家として内政不干渉の原則が働き、国内のガバナンスは不問に付されてきた。しかし近年、人権・民主主義が国際社会共通の価値として定着した結果、そうした価値を踏みにじる政権に対して国連安保理が強制措置を発動する事例も出てきている。つまり、国内のガバナンスの状況を国際社会が判断し、極端な場合にはその変更を求めることになったのである。それが力を背景に行われていることに対して、妥当性が再吟味される必要がある。もうひとつは、自決権を行使する人民の問題がある。それが旧ユーゴや旧ソ連の地域で頻発する「民族」自決問題である。この場合も、政権が民族的相違を理由として抑圧する場合に、最終的選択として分離独立が認められるのではないかと言う主張が、有力に主張されるようになっている。ここにも、国内のマイノリティに対する権利保護をガバナンス規制の一要素とみなす考え方が入り込んでいると見られる。こうして、自決権を素材にしただけでも、これまでの管轄権配分を中心とする国際法から各国のガバナンス規制を要素とする国際法へと重心を動かしつつあることが認められる。
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