平成19年度は、主として法適用過程の諸問題に関する分析を行い、個人責任原則の実体的な内容の解明を行った。具体的には、 (1)ニュルンベルグ・東京裁判以来の国内判例、ICTYとICTRなどの国際判例の分析をとおして、実行責任と監督責任(上官責任)の概念的な相違とその歴史的な意義について検討した。とりわけ、1CC規程28条の成立過程を、ILC草案、Ad Hoc委員会草案、準備委員会での議論などに着目しながら検討し、上官責任の射程と要件の変容を考察した。 (2)個人責任と国家責任の相互関係について、ICJのジェノサイド条約適用事件を素材として検討し、両責任原則が相互に独立して議論されながら、内実においては密接な関係性をもちうることを論証した。また、個人責任原則が、国際紛争・国内紛争の解決過程で果たす役割と問題につき、シエラレオネ特別裁判所、コソボ・パネル、東ティモール・パネル、カンボジア特別裁判所などの混合裁判と、ICIY・ICTRといった純粋な国際裁判との比較検討を行った。 (3)ICCにおける被害者賠償請求の手続を分析し、個人の刑事責任と民事賠償責任の関係についてその骨格を検討するとともに、国連総会が2005年に採択したBasic principles and guidelines on the right to a remedy and reparation for victims of gross violations of international human rights law and serious violations of international humanitarian lawの作成過程、国際法協会(ILA)の「戦争犠牲者のための補償委員会」が審議している補償措置の内容などを検討することにより、個人の民事賠償責任の性格について、国際法の到達点を明らかにした。
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