本年度は、武力紛争時のジャーナリストの地位と保護に関する国内外学会での議論や関連文献・資料の収集・整理を前年度から引継ぐとともに、諸論点を整理しつつ研究を進めた。研究の成果として、次の諸点が注目される。1、歴史的には、19世紀後半以降の主要な戦争や武力紛争において、交戦国内外の新聞社の特派員が交戦国領域に派遣され、戦争記事を新聞社に送る慣行が生まれた。これを受けて1899年と1907年のハーグ陸戦の法規慣例に関する条約付属規則(ハーグ陸戦規則)は、従軍する新聞の通信員が捕らえられた場合捕虜の待遇を与えた。2、その後、通信手段(とくに無線通信)が発達した結果、交戦国は通信員の活動規制や検閲を重視し、二度の世界大戦でもとくに彼らを保護する企てはなされず、その経験に基づく1949年ジュネーブ諸条約も特別の保護規定を設けていない。3、第二次大戦後、民族解放戦争や内戦など武力紛争の構造や性質が変わる中で、上の諸条約に対する1977年第一追加議定書は武力紛争地域で危険な任務に従事する報道関係者を文民として保護することを明記し、彼らが身分証明書を取得しうるとした。4、最近の地域・民族紛争や対テロ戦争などでジャーナリストの犠牲が目立つ事態を考慮して、国連などの場でジャーナリストの職業上の役割(情報提供)と地位を認めて、人道法上、戦場の衛星要員や宗教要員と同じよう特別保護を与えるべきであるという主張もなされている。万国国際法学会でも戦場ジャーナリストの国際的地位と保護をめぐる議論がなされている。本年度の研究から得られた上記の知見に基づき、このテーマの論文を執筆する予定である。
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