本年度は、カッパー=ヴォルステッド法案の連邦議会での審議状況を詳細に分析し、法案の争点、意義、重要性を明らかにした。(研究内容)下院法案(H.R.13931)は、(1)農民に会社と同じような組合を設立する権利を与え、権利を平等にし、(2)組合は中間商人を排除し、高い生活費を抑制し、消費者に役立つなど公共性があり、(3)組合が独占化し公衆を搾取したときは、排除措置命令で規制できるという内容のものであった。(1)は法案反対派のクラス立法批判に対抗し、(2)は組合当然違法論に対抗し、(3)は組合独占論に対抗するものであった。これに対して法案反対派は(1)法案は農民に特権を与えるクラス立法であり、(2)組合に独占形成を認め、消費者の生活費を高め、(3)農民の守護天使である農務長官に規制権限を独占させるので、有効な規制ができないと判した。さらに反対派が多数を占める上院司法委員会は、(1)2条の「農務長官」を「連邦取引委員会」に置き換え、2条但書(独占形成の企画の禁止+クレイトン法の適用)を挿入する(H.R.13931)又は(2)2条を削除し1条に上院代案(独占形成の企画+連邦取引委員会法の適用)を挿入する(H.R.2373)という対抗策を提案した。(1)(2)に共通する「独占形成の企画」は危険の蓋然性理論によって独占行為に達する以前に組合を規制するものであり、またクレイトン法や連邦取引委員会法の適用は、萌芽理論によって組合独占を萌芽のうちに摘み取るものであり、いずれも取引を制限する農民の結合(農協)を不合理な制限ではないと立法宣言する1条を無意味にするものであった。(1)は下院で否定され、(2)は上院で否決され、下院法案が法律になった。(意義)本法はクレトン法6条の欠陥(非出資組合の適用除外からの排除、限界要件の抽象性)を克服し、農民に組合を設立する権利を与えるところから「協同組合のマグナカルタ」と言われた。また取引を制限する農民の結合は当然違法の原則によれば違法になるが、合理の原則によれば適法になり、後者の判断を裁判所に委ねれば不安定になるところから、本法は合理の原則により一定の要件を満たす組合を違法な結合ではないと立法宣言するものであった。(重要性)わが国でこのような反トラスト法からの農協適用除外立法の研究は初めてであり、独禁法22条の「組合の行為」の解釈に大きな示唆を与えるのである。
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