わが国の個別労働紛争の調整的解決のシステムは、種々の機関による多様な方式から構成されており、いかなる理論基盤にもとづきどのような調整技法が期待されているのか、明らかでない。その結果、各調整の実際では、ともすれば個人的な情熱や自己流の技法に負っており、そのことが制度の信頼性を損なわせる。本研究の問題意識はこの点にあった。 そこで、規範やモデルとなる労働紛争の調整の理論ないし技法を求めるために、諸外国の法制度とその実施状況を調査し、それらの比較法あるいは比較制度論的な考察により、規範的な方向性を見定め、それをわが国の諸制度に当てはめることにより、理論形成を図ることが可能となる。 平成19年度においては、外国の諸制度の理論および実務を調査するために、(1)フランスの個別労働紛争の第1審裁判所である労働審判所を調査し、同年8月28日にリヨン労働審判所、同29日にパリ労働審判所において、特に調停制度の運用について聞き取りを行った。(2)個別労働紛争としての不当解雇を不当労働行為の一環として解決している韓国につき、同20年2月12日および14日に中央労働委員会および江原道労働委員会において、実情について聞き取り調査をした。(3)公民権法に基づく個別労働紛争の解決、ADRによる個別紛争解決、州法の人権省による雇用差別紛争の解決など多様な紛争解決の枠組みをもつ米国について、同年2月25日から3月1日にかけて調査を行い、NLRBのニューヨーク支局、イリノイ州(シカゴ)人権擁護委員会、EEOCのシカゴ支局等において聞き取り調査を行った。これらの調査結果は、順次雑誌論文として公表する。 以上とは別に、わが国の労働審判所および都道府県労働局の調整的な紛争解決の実情について、理論研究を重ねており、5件の成果を雑誌論文として公表した。
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