平成20年度は前年度の研究を踏まえ、主として、(1)苦情解決制度の法目的、(2)ADRとの関係、(3)社会保障紛争解決制度としての社会保険審査官・社会保険審査会制度との関係、また(4)権利救済と権利擁護との関係について研究を行った。 (1)この制度は権利・利益を巡る紛争の解決を直接の目的としているのではなく、個別サービスに係る苦情申立てを捉え、その解決を通してサービスの質の向上を図るという固有の法目的を有していること。(2)ADRが紛争解決方法の中心に和解・調停・仲裁をおいているのに対して、この制度は相談、助言、指導またはあっせんという方法によって、サービスの質の向上を図るものであること。また行政的監督権限と結合せしめられていること。(3)社会保障紛争解決制度としては、社会保障紛争が給付や負担に関する行政処分の取消請求や異議申立として現れ、請求人が審査官決定や審査会裁決に不服がある場合に裁判手続に移ることができるが、苦情解決による助言や指導はそれ自体としては強制力を有せずまた裁判手への移行を前提としていない。従って、例えば金銭の給付や負担関係をめぐる紛争の解決は行わないこと。(4)権利擁護は比較的近年に法令に現れたものである。従来の権利救済という用語が裁判手続を含みまたこの手続への移行を可能にしているのに対し、権利擁護はこれと異なり、裁判手続との関係を想定せず、福祉・介護サービスの質を向上させまたその利用者のサービス利用の促進や便宜供与その他多様な方法による利用者の権利利益を擁護する多様な方法を内包している。この点からすると福祉・介護サービスの苦情解決制度は権利擁護システムの重要な一つと言える。
|