本年度においては、沖縄労働局等の公的機関や刊行物を通じて、沖縄県における雇用・失業問題に関する統計情報・政策文書等の収集を行った。また、雇用政策担当者等へのヒアリングを行った。さらに、沖縄県の若年者雇用に関する先行業績の検討や、そこに記載された情報のフォローアップを行った。これらの作業を通じて、沖縄県の雇用慣行の特徴や若年者雇用の課題を明らかにする基本データの収集を行うことができた。沖縄県における若年者の雇用状況は近年改善されつつあり、これは景気の回復という要因にもよるが、地道な就職支援策の積み重ねの成果でもあるとの仮説を現時点では立てている。しかし、このような就職支援策の展開が、権利論・規範論によって支えられていないという問題点があるとの認識ももつに至っている。 これらのデータの分析を次年度に進めるに先立って、雇用の不安定化・非典型化等を通じた労働市場の二極化のなかで、所得の「安定」と雇用(あるいはよりよい雇用)への「移行」をどのように制度化するかという課題の検討に着手した。この課題の検討は、未就業失業や非典型雇用が増加した若年者雇用にとって、とくに重要であると位置づけた。そのうえで、ヨーロッパ(とくに若年者失業率の高いフランス)の最近の労働市場改革において、同課題への対応策として重視されつつあるフレキシキュリティ概念とアクティベーション戦略について、その具体的内容の検討を進めた。 これとの対比で、沖縄では若年者雇用を中心に雇用社会の市場化とそれへの政策的対応が従来からみられるが、その状況のなかで「安定」と「移行」のための仕組みをつくるには、権利基底的アプローチによる労働市場のリスクマネジメントというコンセプトが必要ではないかなど、今後の検討に有益と思われる基本的視点を得ることができた。
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