本年度は労働契約法を中心に研究を行った。グローバル化と情報化を基軸とする21世紀のポスト産業資本主義時代に、我が国の経済社会が安定的に発展進化するためには、企業組織における従業員の役割が決定的な意味をもってくる。多元的なステークホールダー間の利益調整を図りながら企業がその価値を高めていこうとする場合、知識社会としてのポスト産業資本主義時代においては、組織特殊的な人的資源としての従業員が価値創造の源泉となる。したがって従業員が企業ミッションに積極的にコミットし、その職業的能力を高めると共に、ライフステージごとに多様な生活者としての欲求を充足させるための社会的制度の整備は焦眉の課題となる。その場合、企業と従業員の関係を規律する労働法は、従来の労働者保護法としての性格を維持しつつも、企業における価値創造を担保・促進するという新たな役割が与えられる可能性がある。従業員が企業の価値創造の主要な担い手となるためには、従業員が企業ミッションにコミットすることで、労働者が自律性的に企業組織へのインテグレートされることが重要であり、それを担保する法制度が労働契約ということになる。労働契約法は、企業が環境変化に柔軟に対応することと、従業員の職場と家庭の安定をはかること、この両者を両立させるために、労働関係の成立・展開・変更・終了のすべての段階において、労使間の十分な交渉・ユミュニケーションと納得・合意をベースとした関係性を担保する法制度としての役割を担うことになる。こうした観点からは、成立した労働契約法はとりわけ就業規則法理を中心に多くの課題を残している。ドイツやオランダなど欧州においては、フレセキュリテーの実現に向けた新たな取り組みをも進んでおり、それらを参考にしながら21世紀日本のあるべき労働法をさらに検討してゆきたい。
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