研究概要 |
本年度は、イタリア・ギリシャにおける司法取引関連制度の文献収集および調査を継続するとともに、その成果を論文にまとめる作業を行った。とりわけ、イタリアにおいては、1970年代から、組織犯罪に関して、実務上、被告人が司法に協力した事実を量刑上有利に考慮する扱いがはじまり、1990年代後半以降は、関連立法が相次いで実現し、量刑上の扱いだけでなく、証人保護プログラム等が導入されるに至っている。その際、起訴便宜主義のもとでいわゆる「刑事免責」制度をとるアメリカとは異なり、(憲法上)起訴法定主義を採るイタリアでは、司法協力者に「免責」を認めることには消極的で、司法協力に対する実体的な「報償」としては、刑の減軽や行刑上の措置を講ずるにとどまることが確認された。また、イタリアにおいては、組織犯罪のなかでも、テロ犯罪とマフィア型犯罪とでは、司法への協力の動機が類型的に異なることから、両者を区別して議論していることも判明した。ギリシャに関しても,2000年以降、組織犯罪を対象に、司法取引的手法が導入されてきたが、最近では、贈収賄事件もその対象に含めることについて議論があることが分かった。これらの諸国の司法協力者の刑事手続上の扱いに関する実務・立法の沿革・現状については、現在、論文にまとめつつあるところである。他方、日本における司法取引的手法の導入の是非に関しては、司法取引それ自体の問題性を検討する前提との一つとして、公訴に関する基礎理論の再検討が必要となるものと考えられることから、訴因変更の限界・可否に関する刑訴法312条1項の解釈論をめぐる従来の学説に批判的検討を加え、「公訴」の対象事実の「単位」についての理論的検討を行った。
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