今年度は、研究課題である「同意無能力者および限定的同意能力者の同意の有効性」に関して、とりわけドイツとの比較において、何がわが国において論じられるべきかについての基礎的な作業を行った。まず、基本的な文献を集め、分類し、そして現在検討しているところである。経過としては、昨年5月にオスナブリュックで行われたドイツ刑法学会では、ギーセン大学のヴォルフスラスト教授、アウグスブルク大学のロゼナウ教授に文献検索等で力を借り、この中で一定の示唆を得た。9月には11日間ドイツに滞在し、ゲッティンゲン大学のドゥトゥゲ教授より当該問題の概略を聞き、当方からは日本の状況についての説明を行った。具体的には、少年の、また、とりわけアルツハイマーに罹患している老人の同意能力についてである。なお、ドゥトゥゲ教授は現地のアルツハイマー等に関わる老人倫理委員会のメンバーである。同じ9月には、ロゼナウ教授を日本に招き、標記テーマに関する共同研究を行った。そして、今年3月には、約1月間ドイツに滞在し、先の各教授陣、そしてゲッティンゲン大学の前学長シュライバー教授らに対して、ドイツにおける当該テーマの問題点、各教授等の見解等、同意能力に関わる10数項目の質問を準備し、インタビューを行った。これとあわせて、アウグスプルクでは小児科医ティムニック博士、ゲッティンゲンでは脳医学者ヴォルフ教授からそれぞれ見解を得た。今後は、以上を基礎的な資料としたうえで、研究の方向付け明確にしていきたいと考えている。 なお、上述の研究作業と並行して、どういった場合に同意が必要なのか、責任無能力者における同意の得方、それが得られない場合に、どのような範囲で人に対する実験等は許されるのかについて、とりわけ人間の尊厳との関係で考察した論文を発表した。一連の研究の成果であり、これには先の先生方の協力を仰いだこと付記しておく。
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