本年度は、まず、前年度に引き続き、先進諸外国における犯罪被害者法制の最新の状況を把握・分析する比較法的研究に取り組んだ。具体的には、主にドイツ法につき、被害者に対する「保護」、「情報提供」、「参加」、「損害回復・救済」へと対象を拡大した。これとあわせ、アメリカの被害者法制につき文献・資料の収集・検討を行い、その上で、ドイツ法制と対比する形で研究を進めた。従来の研究では、個々の国が分断される形で扱われる傾向があったので、本研究では、両国法制の背後にある基本思想の共通点・相違点にも考察を及ぼし、わが国刑事訴訟への示唆・影響力を明らかするように努めた。一方、計画では、既存の犯罪被害者実態調査に加え、わが国における近時の法改正以後の実務での法解釈・運用・問題点等を実務家への聞取り調査等により理解する作業にも従事する予定であったが、計画段階では想定していなかった早さで新たな被害者権限拡充法制(特に「被害者参加制度」、「損害賠償命令制度」)が進展を見せたため、これらの内容の検討とともに、裁判員制度との関係についての検討を優先的に行い、その過程で、実務家からの聞取り調査を実施した。あわせて、裁判員裁判については、施行を翌年度に控え、模擬裁判事例等も増えたので、それらを活用して、できるだけ実態に即した法制度整備のための基礎的研究に従事した。その際には、比較法的知見を参酌しつつ、わが国独自の刑事司法制度との関連を十分考慮した上で、全体としてバランスのとれた法制度のあり方を検討・考案するように努めた。
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