まず、保険事故発生前の保険金請求権の価値を法的に評価すべき局面として、どのような場合があるかについて検討を行った。当初から考えられていたのは、遺留分減殺、特別受益の持戻しの局面、また、変額保険の説明義務違反における損害賠償の局面である。なお、後者の局面では、とくに未解約事例において損害賠償が認められるかという問題において、重要な意義をもつことが認識された。これら以外の局面としては、保険契約の買取における適切な対価の決定という問題がある。さらに、アメリカでは、Stranger Originated Life Insuranceという仕組みが開発されているようである。これは、高齢者を対象に当初は自己のためにする保険という形で生命保険契約に加入してもらい、当初の2年程度はそのままで2年経過後に保険契約者、保険金受取人を変更するという投資の仕組みである。当初から保険契約者変更等を目的としている点で保険契約の買取に近い。そもそもこのような仕組みが適法かどうかについても議論の余地はあるが、適法であるとすれば、適切な形で仕組みを構築することが必要であり、保険金請求権の価値の評価が関わってくるものと思われる。これらは保険契約者が変わるという場合の問題であるが、逆の形態として、保険者が変わることもありえる。つまり、ある保険会社が別の保険会社に契約を移転させるということである。これは保険会社の破産時を除けば理論的な問題にすぎないであろうが、理論的には問題になりうる。 このように今期は具体的な成果としては、保険金請求権の価値の評価が問題となる局面の洗い出しにおいて成果がみられた。保険金請求権の評価方法については、保険会社における債務の時価評価の議論が現在も国際的に進行中であり、これらのフォローに努めた。
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