研究概要 |
本年度は,米国で事業展開を行う企業の法令遵守体制の整備、構築に重点を置いて研究を行った。その中でも量刑ガイドラインを中心に研究を進めた。関連する反トラスト法制のエンフォースメントにおいては,司法取引が重要な役割を果たすが,司法取引に基づく有罪判決がクレイトン法4条に基づく後続私訴の証拠たりうるかについては必ずしも明らかではない。特に量刑合意は量刑段階における取引であるにも拘わらず,不抗争答弁同様,同意判決と同等視し得るとしてクレイトン法5条(a)項但書が適用され,prima facie evidenceとしての効果が及ばない,と解すべきか。後続私訴の多くが和解で終結する為,調査は容易では無いが,現在はこの点に関する研究に集中している。証券法分野では「公正開示規則」に関して,近時,Siebel Systems第二事件判決が連邦地裁によって下されており,その検討を踏まえて研究報告を行った。これについては近日中に論稿に纏める予定である。また,クレディアの民事再生法申請によって明らかとなった「消費者ローン債権の証券化」をめぐる問題について,米国におけるサブプライム、ローン問題とその本質を同じくする金融機関のコンプライアンス問題であるとの立場から研究報告を行った。欧州に関しては,第一に,EC条約82条における特有の概念としての,不当な高価格設定の概念にっいて研究を行った。現時点では,リーディングケースとされるGeneral Motors事件,United Brands事件等々を検討することにより,特定の地域的ないし相手方に高価格を設定する行為の違法性については,まだ不明な点があり,この行為が82条違反となる市場支配的地位の濫用に該当する理由が確立されていないことが判明した。現在は,当概念のもととなるであろうEC条約の基本原理を検討することにより,これを明らかにする作業を行っている。
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