研究概要 |
まず,民間型ADRについての比較法研究を進めた。具体的には,EUで審議されているADRに関する指令の内容を検討し,また,その前提として蓄積されてきたEU内でのADRに関する規範について調査を進めた。ADR指令に関しては,問題点の提起とパブリックコメントが提出されており,それらに基づいて,ADRの定義・意義,備えるべき性質,とくにADR実施者の中立的性質の理解の仕方,ADRで提出された情報・事実・和解案をADR終了後の裁判手続においてどのように扱うべきか,などの重要な諸論点を条文化したワーキンググループ案が提出された。現在は,これの検討のための第一読会が終了したに過ぎず,最終的な指令案については,予想するのはまだ困難である。もっとも,審議過程を追うことによって,アメリカ型のADRとは異なる,EU独自のADRのありようが浮かび上がってきた。また,国際ワークショップを通じて,カナダ,イギリス,及びオーストラリアの消費者紛争ADRについて比較研究を行った。これによって,民間型ADRといえども,国家ないし行政庁のバックアップや立法(ないし規則)によるADRの促進が極めて重要な意味をもっていることが明らかとなった。他方,国内におけるADRに関しては,主としてADR法の解釈論,とくに,同法による認証基準となる条項について,詳細な解釈論を試みた。その成果は,後述の共著書に盛り込んでいるが,日本で公刊された解釈論としては最も詳細なものと思われる。また,仲裁ADR法学会でのシンポジウムでの報告に基づいて,消費者紛争ADRの総合的な構築と,そこで問題となる民間型ADRと行政の関係(大きく言えば,公法と私法,公益と私益の対立)や他の機関との棲み分けなどについても,検討を進めた。さらに,民間型ADRに関する調査研究を行った結果に基づいて,消費者紛争ADRの実態の分析を行った。
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