(1)本年度は、契約交渉と市場秩序の内在的関係を把握し、市場という枠組みにおいて契約法・契約交渉の果たす役割を考察した。例としてドイツ契約法におけるシュミットーリンプラーの契約メカニズム説を取り上げ、(a)二当事者間での契約交渉の帰結を、エッジワースボックスを用いて検討し、さらにその知見を(b)n人当事者間での契約交渉に拡張した。この考察により、契約交渉は単に二当事者間で成立する契約の正当化という意味に留まらず、n人間での契約交渉に目を向けるたらげ、エッジワースの極限定理により、競争的市場秩序の生成という意味においても重要な意味を持つことが明らかとなった。また、従来の契約法学がもっぱら二当事者間での契約規範の正当化という観点にとらわれており、市場における多数当事者間の契約交渉により生成する秩序の構造について全く注意を払っていないことを明らかにした。この知見は論文「契約交渉と市場秩序」に公表した。 (2)次に、投資取引における投資家心理を、行動経済学(プロスペクト理論)の分析枠組みに基づいて検討し、新たな投資勧誘規制法理について検討した。投資家の有する価値関数の三つの特徴、(a)参照点依存性、(b)損失回避性、(c)感応度逓減性により、多くの投資紛争に見られる投資行動につき合理的な説明が可能となること、また投資プロセスにおける技資家の心理状況にに着眼した投資勧誘規制法理が求められることを明らかにした。この知見は論文「投資行動の消費者心理と勧誘行為の違法性評価」に公表した。
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