平成19年度および20年度に得られた成果をもとに、当初の計画通り、わが国および英国の状況についてのフォローアップを行った。その際に昨年度から加えた米国の状況についてもフォローアップを行った。これらの結果を踏まえて、わが国の会社法制が、中小企業の資金調達とステイクホルダーとの利益バランスがどうあるべきかにつき、 (1)中小・ベンチャー企業の資金調達法制のあり方について…立法論 (2)保護すべきステイクホルダーの利益とは何か…政策論 の2点について、特に取締役の義務という視点から総括することを試みた。 加えて、取締役の義務の範囲という視点からは(2)の論点については検討が容易であるものの、(1)の立法論については結論が得がたいことかち、わが国の判例、とりわけ、利害関係者が多岐にわたる判例(本研究では、特に有価証券報告書の虚偽記載と取締役の責任が問題とされたライブドア事件)について深く分析することにより、一定の結論を得ることを試みた。 以上のことから、(1)については、資金調達方法の多様化・容易化が中小・ベンチャー企業にとっては必要である反面、その前提として、資金調達の「場」となる資本市場が「健全」でなければならず、そのためには市場参加者である投資家の保護がディスクロージャー制度を通じて徹底されなければならないことが理解できた。 また、(2)については、ステイクホルダーの利益は取締役の義務の範囲を株主以外の第三者に広げることで一定程度図られること、その際には「誠実義務」というカテゴリーを考えることが有益であること等が理解できた。
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