平成19年度に実施した研究の成果は、(1)オンライン申請といういわゆる行政サービスの情報化に即応できない地域(以下、情報化非即応型地域・愛媛県松山市・7つの離島)に対し不動産登記に関わるオンライン申請についての実態調査(住民、行政、司法書士、土地家屋調査士)を実施し、現状を認識した。その上で、(2)先ごろ総務省から公表された全国調査の結果との相関性、相違性を分析した。また、平成20年1月よりオンライン申請について一部法改正がなされた意義と効果にも検討を加え、(3)不動産登記のオンライン申請を取り巻く環境の現況と問題点を分析し、その結果を公表する準備を継続している(愛媛大学法学会誌34巻3・4号掲載予定)。本研究の意義は、情報環境(ハード・ソフト)が必ずしも十分ではない地域の不動産登記のオンライン申請の現況を明らかににした点にある。さきの法務省による調査は、オンラインを使って回答を求めたものであり、調査対象(サンプル)の属性に偏りがある。本研究は、地方自治体、住民、士業といったオンラインに関わる各当事者から広く聞き取り調査や手書きアンケートによる意識調査を行った(意識調査の背景をより正確に理解するため)。多様な情報リテラシーや異なる通信環境、高齢者や第一次産業従事者といいた方々からのアンケート結果は法務省の調査では明らかにされているとはいえない。また、オンライン申請の現状について全国と地方との調査、分析をもとにした研究成果は多くない(離島を対象とした調査研究は本研究が初めてであろう)。今後、多くの行政サービスがオンライン申請に移行する中において、広く市民にとって望ましい行政サービスのあり方を不動産登記のオンライン申請の問題点から導き出し、一般化できるひとつのモデルを示すことが本研究の成果によって可能となるものと考える。
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