本年度は問題の所在を具体化し、分析視角を明確化することにウエイトを置いた。計画はおおむね予定通り実行に移すことができたが、やむをえない事由により研究計画の遂行が6ヶ月程度遅延したため、外国の法学者を交えた国際的学術交流は次年度の課題とせざるをえなかった(→この点に関しては、平成20年度夏にミュンヘン・フランクフルトでの短期の在外研究を実施し、同年度末に、ミュンヘン大学(ドイツ)のゲルハルド・リース教授を招聘して東京で学術交流を実現した。)。 本年度は3本の論文を公表した。まず「背信的悪意者排除論の一断面(2・完)-取得時効に関する最判平成18年1月17日を契機として-」(立教法学74号)を公刊し、不動産・動産・債権の二重譲渡と同一財産に対する担保権設定をめぐる諸問題を横断的に考察する研究を完結させた。そこでは処分対象の客体の性質及び当事者の契約目的(契約を通して追求している利益の性質)に応じて、問題の処理枠組みにどのような差異が生じるかを分析・検討し、現在の判例法に理論的基礎付けを提供することを試みた。その骨子を実務家および学生向けに圧縮して解説したものが「不動産の取得時効完成後の譲受人が背信的悪意者とされる基準」(ジュリ1332号平成18年重要判例解説)である。 また債権譲渡法の分野では、「譲渡禁止特約の効力制限に関する基礎的考察」立教法学70号で行ったドイツ法の比較法的・法史学的考察を踏まえて、小稿「譲渡禁止特約の現代的機能と効力」(『民法の争点』)を発表し、日本法の解釈論について提言を行い、今後の研究の礎石となる視点を提示した。次年度以降日本法の判例分析を行った上で、解釈論および立法論を本格的に展開してゆく予定である。
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