本年度は、大別すると次のような二つの方向で、研究成果を残すことができた。 一つは、昨年度に、動産および債権の譲渡や担保化の局面において取引安全がどのように図られているかを、不動産の譲渡・担保権設定の場合と対比しつつ、その共通点と相違点を明らかにした論文を発表したが(「背信的悪意者排除論の一断面(2・完)-取得時効に関する最判平成18年1月17日を契機として」(立教法学74号)、そのエッセンスを実務家や勉強の進んだ法科大学院および法学部の学生等に向けて、より分かり易く解説した書物『コンビネーションで考える民法』(商事法務)を北居功・花本広志・武川幸嗣・田高寛貴と共同執筆し、研究成果を世に問うた。 もう一つは、債権取引に関する重要な問題点である譲渡禁止特約の効力に関する論文「民法466条2項ただし書の「善意」の意義と証明責任-独日法を比較して-」を発表した。これは筆者の従来からの研究成果である「債権譲渡禁止特約の効力制限に関する基礎的考察」(立教法学70号)および「<民法学のあゆみ>池田真朗『債権譲渡法理の展開』」法律時報74巻4号等の内容を一層発展させて、現行日本法の解釈論として提言を行うものである。すなわち日本民法第466条2項ただし書における「善意」の意義と証明責任につき、同種の問題に対するドイツ民法の規律(BGB第405条)とを比較して、独日法の共通点と相違点を浮かび上がらせた。同時に体系的見地からの考察を加えて、判例法の結論に対してヨリ適切な理論的正当化の道筋を示した。また2009年3月末に公刊された債権法改正提案で抜本的な改正が企図されている債権譲渡法制をめぐる立法論に対しても積極的に発信すべく、すでに論稿を準備中であり、本年秋に雑誌『法律時報』に発表を予定している。
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