本年度は、まず、昨年度末に公表した研究論文を発展させて、知財信託と債権信託との理論的実務的連続性についてより具体的な検討を行い、日本知財学会で研究発表を行った(星野豊「知財信託と債権信託の連続性」日本知財学会第6回学術研究発表会、2008年6月、同発表会講演要旨集350頁〜353頁)。同学会発表における聴講者の多くは自然科学系の研究者及び実務家であったが、上記発表に対する一般的な反応としては、知財信託と債権信託との理論的連続性自体については特に異論はないものの、実践的感覚としては可能な限り知財信託における「知財」の概念を柔軟に考えることによって「知財信託」の成立時期を前倒しする解釈をとるべきであり、具体的には、研究構想及びそれに基づく研究設備、過去の実験データ等の既存の知見、研究遂行に伴って逐次蓄積される実験データ等の知見等を、知財信託における「知財」に含めてよいのではないか、というものであった。知財に実務上直接関わる自然科学系の方々からいただいた上記のアドバイスを取り入れていこうとすると、今後研究対象とずべきものは、知財信託における「知財」の概念そのものであり、かつ、従来の法律学が必ずしも詳細に研究することができていない、「知財に対する法的価値評価」を検討対象とすることが必須となる。このように、本年度は、当初予定していた知財信託の理論的概念を限定的に捉えて債権信託で代替させる発想からの実質的な転換を迫られた結果、公表業績としては上記学会発表のみにとどまることとなったが、この遅れは必ず来年度において取り返し、知財信託に関する理論的視点を自分なりに確立させることとしたい。
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