本年度は、本助成研究の最終年度でもあり、天然記念物制度成立の背景の理解のための文献調査と、人と自然の関係性にかかわる天然記念物や狩猟地の現地調査を重点的に行った。文献調査については、帝国議会議事録と、19年度に購入した雑誌「史跡名勝天然紀念物」のバックナンバーの読解を行い、天然記念物制度成立当時の立法者や官僚の自然保護に関する政策観や思想を検討した。文献調査の成果の一部として、法学研究81巻12号に「「狩猟の場」の議論を巡って」を発表した。当該論文は、明治25年に成立した旧狩猟法の制定過程を題材にしたものだが、野生動物保護管理において、科学的な判断だけではなく、地域社会と自然との関係性と文化を踏まえた政策立案が必要であることと、鳥獣管理の担い手として地域中間集団の重要性を説いている。人と自然の関係性にかかわる現地調査については、実際の天然記念物の指定地(豊岡市、富山県内、奄美大島、沖縄本島など)のほか、天然記念物指定にこだわらず、長野県秋山郷などの自然との関係性を密接に有している狩猟関係の地域において行った。特に沖縄については、天然記念物指定種ジュゴンの主要な生息地である沖縄県名護市辺野古が、米軍嘉手納基地の移転候補地となっており、本年も現地調査を行い、関係者からヒアリング調査も行った。辺野古のジュゴン問題は、研究代表者が継続して研究している題材であるが、本年度においては、現在進行中の訴訟に関し、意見書等を執筆した。この意見書は、学術的視点に立ったもので、本研究の成果の一部を応用しているものである。そのため、早期に公開したいが、まもなく裁判の判決が出るため、それを待って発表する所存である。また同じく沖縄で、環境訴訟が行われている天然記念物種の生息地であるヤンバル地域の調査を行った。ヤンバルにおいては、ノグチゲラ、ヤンバルクイナなどの天然記念物の生息地に林道工事や皆伐が行われている。ヤンバルの森林は琉球王国時代から林業利用されており、調査においても文化的伝統は確認できたが、現代の森林施業や林道工事との文化的な連続性には疑問もあり、生物多様性の持続的利用の観点からも問いなおす必要があるとわかった。今後は引き続き、文献調査を継続したいと考える。
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