研究最終年次であり、患者への医学情報提供システムと医療保障の関連性についての検証と今後の課題を明確にするため、医療政策の専門家からのヒアリングと健康権と医学情報の関連性について資料収集をメルボルンで実施した。医学情報提供システムについては、情報の正確さと患者の理解にとっての適切さの観点から、医師による患者教育とインフォームド・コンセントに際しての医師の医学情報提供のあり方についてヒアリングを行った。その結果、患者の主体性が人権論としては主張されているものの、医師・患者関係の現実はいまだ対等なものではなく、主体的な患者にとっては満足のいく医学情報の質と量が保障されていないことを確認することができた。また、ヴィクトリア州では人権法が制定され健康権についての言及がみられるものの、2000年の国際人権規約(A規約)解釈にみられる情報へのアクセスを下位法で保障してはいないが、医療政策として患者/市民への医学情報サイトの構築が進められ、情報の正確さとアクセスの容易さが急速に実現していったことをみることができた。もっとも、そうした情報の充実の反面、近年の医師と財源の不足は医療格差を現出させており、患者教育として医学情報を入手することができない層も出てきている。こうした層が、医学情報をどのように利用して自己管理と医療へのアクセスを自己決定しているかが、オーストラリア研究における今後の研究課題である。本研究の成果を日本にあてはめるなら、民間が個別に構築している医学情報ポータルサイトを国策として総合ポータルサイトとして構築することにより、患者/市民への医学情報提供を質・量ともに飛躍的に増加させることが、患者主体の医療保障を実現させることになるということがいえよう。
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