本年度は、主として、文献収集に努めた。児童虐待における家族支援の法システムの再検討にあたっては、研究状況の整理が不可欠だからである。関心の高い問題領域だけに、膨大な文献があるが、本研究の目的からみて、以下の点に注目した。 一つは、児童虐待とドメスティック・バイオレンスとの関係に注目した、法的介入論についてである。アメリカでは、児童虐待への法的取り組みにおいて、DV法との比較という視点で、検討が進められていた。とくに、児童虐待への法的取り組みが、DVに比べて、家族保護の要請が強く、子どもへの保護が不十分であることに注意が向けられている。DVへの法的取り組みが、憲法学の課題、すなわち人権論たりうるのかについての、検討が深められたことが、大きいのではないか、と思われる("Domestic Violence from a Private Matter to a Federal Offense(Controversies in Constitutional Law)"、1998.)日本では、児童虐待とDVとの関連についての研究は、あまりなく、カウンセリングの対応として、二つのテーマを取り上げる程度であった(信田さよ子『DVと虐待:「家族の暴力」に援助者ができること』医学書院、2002年)。いまひとつは、心理的対応と法的対応の関係に注目する研究についてである。これも、アメリカでは一定の研究の蓄積があった。これにたいし、日本では、その関係に注目する研究が少なく、逆に、法制度を一方的に批判したまま、心理的療法を提起するものが一部にみられた。もし、法的基礎なしの心理的対応が進展しているとすれば、大きな問題であろう。 いずれにしても、児童虐待もDVも、家族関係における暴力の克服という課題、および心理的対応と法的介入のリンクという課題は、共通しており、比較の視点が必要であることが明らかになった。
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