子ども虐待への対応を「ジェンダーに敏感な視点」(以下、ジェンダー視点という)から検討することが、課題である。今年度は、研究状況の整理と事例検討という作業に取り組んだ。第一に、DVへの対応の進展に伴って浮上している課題を検討した。とくにアメリカなど英語圏の研究状況に注目し、ジェンダー視点の問題状況を探った。一つは、DVにおける加害者への取組として、加害者に対し、強制逮捕や研修義務化が実施されている点である。その是非・方法をめぐり、ジェンダー視点の有効性が争点となっている。いま一つは、DVと子ども虐待の関連が注目されてきており、包括的取組が進展している。ここでも、ジェンダー視点の有効性が問題となっている。したがって、研究でも現場でも、第一段階(DVを社会問題化する時点)で、ジェンダー視点の果たした有効性は広く確認・共有されているが、第二段階(加害者への取組や子ども虐待とDVへの包括的取組)のいま、ジェンダー視点の有効性が再検討されていることが明らかになった。ジェンダー視点の射程を明確にすることが、重要な課題である。第二に、日本の問題を検討した。日本では、第二段階、すなわちDV加害者への取組や子ども虐待とDVへの包括的取組が遅れている。この背景を検討するにあたり、一つは家族政策を取り上げた。すなわち、児童扶養手当法を素材に、日本における近代家族政策は積極的な維持・強化ではなく、消極的な容認・放任にとどまる特質をもつことを明らかにした。いま一つは、憲法研究において無視されてきた上杉慎吉『婦人問題』を取り上げ、日本の憲法学において上杉の著作を例外として、近代家族の問題が回避されてきたことを明らかにし、日本の家族政策の特質と対応している点に注目した。この近代家族の消極的容認・放任という政策・研究状況をふまえ、ジェンダー視点にたつ母親による子ども虐待事例の検討を行った。
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