本研究の目的は、ハプスブルク君主国とその継承諸国の政治発展を政治学的な観点から分析することにあった。 本年度は、昨年度に引き続いて戦間期のポーランドとユーゴスラヴィアの政治発展を概観し、年度初頭にこれをペーパーにまとめた。このペーパーは、共同研究「戦間期セミ・ポリアーキー諸国における政治体制変動の研究」の研究成果報告書(平成17〜19年度科学研究費補助金(基盤研究(B))研究代表者 : 空井護)にも収められている。また、H・キッチェルトの東欧政治発展論に刺激されて、ハプスブルク君主国の諸地域から、戦間期の独立諸国を経て、第二次世界大戦後の共産主義体制とその後の民主化に至るまでの政治発展を概観したペーパーも作成した。このペーパーの一部は、共同研究「旧ソ連・東欧地域における体制転換の総合的比較研究」(平成17〜20年度科学研究費補助金(基盤研究(A))研究代表者 : 林忠行))の成果でもある。 以上のような共同研究の枠組も利用した研究と並行して、戦間期から戦後のハンガリーにおいて、独自の民主的社会主義の政治構想を展開した思想家にして政治家であるビボー・イシュトヴァーンのヨーロッパ、とりわけ東中欧諸国の政治発展に関する歴史像をまとめる作業を行い、学部の紀要に発表した。ハンガリー本国の主流派歴史学の立場とも異なる、いわゆる「クルツ史観」と呼ばれる、反ハプスブルクの立場から見た歴史像なのだが、当該地域のネイション形成などに関して興味深い洞察を含んでおり、同論文では、従来は人民派作家との関連で論じられることの多かったビボーが、実際には一貫した民主主義者であったことを強調した。
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