戦後ドイツの連邦国家の枠組みを形成したのは1949年の基本法である。本研究は連邦国家形成過程を明らかにする目的で、同時代人や基本法制定に関ねった政党政治家の連邦主義言説を解明した。分析の焦点は連邦制そのものを正当化する規範言説であり、制度言説については次の研究課題とした。本研究の研究成果は以下の通りである。 (1)基本法の審議・決定を行った議会評議会の議長アデナウアーは、個人の自由と尊厳を守る立場からキリスト教民主主義と西欧文化への確信に立脚して連邦制の正当性を主張した。 (2)連邦主義は、単なるナチス批判としてのみならず、ドイツ史入の批判的視点を踏まえて提起され、国家全能主義、集権主義、分立主義、分離主義、コレクティビズムへの対抗概念として提示された。 (3)連邦主義は、ドイツの地域的多様性を保持する狙いとドイツの統一性を確保する意図を結び付けて提起された。この意味で戦後連邦主義は多様性の中の統一を志向したものと捉えうる。 (4)戦後創出されるべき連邦制をめぐつては、社会民主党の連邦優位型連邦制、キリスト教社会同盟の州優位型連邦制、そしてキリスト教民主同盟の連邦・州均衡型連邦制という三つの対抗的言説が展開された。社会民主党はドイツの経済的統一性の確保と国家による経済操縦という綱領的立場から、キリスト教社会同盟は州のアイデンティティと州の国家性を維持する観点から、キリスト教民主同盟は連邦と州の間のバランスを図る狙いからそれぞれの連邦制コンセプトを提示した。 (5)連邦制をめぐる言説にはヨーロッパ的視点が明確に現れた。ヨーロッパ的視点とは、連邦制の構築がドイツのヨーロッパへの統合の前提とする考え方、そしてドイツの連邦国家形成がヨーロッパの連邦化に寄与するという立場である。こうした連邦主義のヨーロッパ的視点はすべての党派に共通するものであった。 以上の研究成果を論文として公表した後、引き続いて連邦主義の制度言説の研究に着手した。その際、連邦と州の権限関係に焦点を定め、ヘーレンキムゼー憲法会議や議会評議会の議事録などに基づいて作業を行っているところである。
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