研究課題
(1) 昨年度のイギリスに続いて、今年度はアメリカ合衆国の調査を行った。シアトルやポートランドにおける都市内分権の制度は、地域の有力団体の代表によって構成される委員会ないし評議会が、地域に関係する問題に関して市議会に意見を提出できるというものであった。なお、それとは別に、地域の団体が行うプロジェクトに対する補助金申請を推薦する役割も与えられていた。(2) これとは別に、直接に調査はできなかったが、ロサンジェルスにおいては、住民の選挙によって選出される近隣評議会の制度があり、人口4万人以上の地域で住民の申請に基づいて設置されている。現在89存在する。約500万円の予算が与えられるほか、市に対して様々な意見を提出する役割を果たしている。(3) これまでの調査によって、選挙を経た本格的な「近隣政府」としては、イギリス、スェーデン、イタリアなどで全国的に制度化されているほか、アメリカにもいくつかの事例があることが確認できた。日本においては、上越市が2003年に地域自治区の地域協議会の準公選を行った事例があるのみである。なお、現在、名古屋市において新たな実験が行われる可能性が出てきている。(4) 他方、地縁組織についての研究によって、占領軍による戦後の町内会禁止を経て、町内会長を「区政協力委員」などの役職に委嘱して、事実上、町内会を自治体の下部組織的に使うという慣行が全国に広がったことが確認できた。しかし、全戸加入の原則は空洞化しており、役員の高齢化もあって、活動が衰退しているのが現状である。(5) 以上を踏まえて、2004年に導入された地域自治区制度に基づき、自治体の独自の判断で地域協議会を準公選によって選出することで「近隣政府」に近い制度を導入することが日本においては現実性が高い提案であることが明らかになった。研究の最終年度においては、そうした近隣政府の存在を前提に、地縁組織がどのような新しい役割を果たすべきか、そして、NPOなども含め、全体として新しい地域自治の構造をどのように構想すべきかについて研究の結論をまとめたい。
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Lessons rom Abroad : the third sector's role in public service transformation, Association of Chief Executives of Voluntary Organizations, UK
ページ: 133-153
生活経済政策 143
ページ: 8-12