本研究は、日本ときわめてよく似た歴史過程をたどってきたドイツが、今日、周辺諸国との信頼関係という点で、はるかにポジティヴな立場にあるのはなぜかという問題意識から、ドイツが、非軍事・民間部門の国際貢献を活かしている実情と問題点を追究しようというものである。本年度は、いわば総論的な導入作業として、学問的な平和研究の理論と実証分析が、現実政治にいかなる影響を及ぼしているかについて調査した。 具体的には、「ドイツ平和研究財団」(オスナブリュック、DFG)、ハンブルク大学付属「ハンブルク平和研究・安全保障政策研究所」(IFSH)、「福音主義学術共向体研究所」(ハイデルベルク、FEST)、「ヘッセン平和・紛争研究財団」(フランクフルト・アム・マイン、HSFK)、「軍事化情報センター」(テュービンゲン、IMI)への訪問・インタビューを通じて、1999年3月のコソヴォ空爆以降、平和研究と現実政治との間に深刻な亀裂が生じている実態を確認した。 また、批判的平和研究の草分けであるフリッツ・フィルマー・ベルリン自由大学教授との意見交換を通じて、ドイツにおいても、少数の政治エリートが権力と富の再分配に無関心で、大衆の要求を管理・操作して、民主主義が形骸化する「ポスト・デモクラシー」状況が深刻化しているとの教示を得た。 以上から、ドイツの非軍事国際貢献は、決して予定調和的に進んでいるわけではないとの知見が得られ、その成果は、後述の論文および学会報告の一部を構成した。
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