本研究は、イギリスにおいて現在もなお進行途中にある統治構造改革のうち、特に地方自治に関わる領域に焦点をあて、この改革が近代以降の歴史過程においていかなる意義をもつかについて実証的に検討しようとするものである。 イギリスでは、「住民自治」的性格を色濃くもつ近代的地方自治制度が1980年代にいたるまで基本的に維持されてきたが、サッチャー政権下で徹底的に解体されることとなった。その結果、都市部を中心に様々な矛盾が発生し、1997年にブレア政権が誕生すると、新たな形で「住民自治」的な視点にたつ制度改革が試みられるようになっている。 本研究では、こうした改革動向を実態に即して分析し、この改革がかつての近代的枠組みとどのように異なり、どのように連続しているかを明らかにする。そして、2007年度は、その点をふまえ、「公共サービス提供における現代的『住民自治』」に着目した調査・研究を遂行した。ここでは、ボランタリー・セクターやコミュニティ・セクターなどの民間アクターと地方自治体との協働関係をとおした多様なサービス提供のあり方を対象とし、その具体的実像の解明を主な目的とした。そのため、2008年1月26日から2月4日には、ニュー・ディール・フォー・コミュニティ(New Deal for Community)プログラムに基づいて活動するロンドン市内のいくつかのパートナーシップを訪ね、活動開始から10年近く経った今の段階での総括と展望につき聞き取りを行った。場所によって相当な違いはあるが、総じて「住民自治」的活動の活性化に向けて、様々なアクターが多様な工夫を行いながら協働している様子が確認できた。
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