本研究は、イギリスにおいて現在もなお進行途中にある統治構造改革のうち、特に地方自治に関わる領域に焦点をあて、この改革が近代以降の歴史過程においていかなる意義をもつかについて実証的に検討しようとするものである。 イギリスでは、「住民自治」的性格を色濃くもつ近代的地方自治制度が1980年代にいたるまで基本的に維持されてきたが、サッチャー政権下で徹底的に解体されることとなった。その結果、都市部を中心に様々な矛盾が発生し、1997年にブレア政権が誕生すると、新たな形で「住民自治」的な視点にたつ制度改革が試みられるようになっている。本研究では、こうした改革動向を実態に即して分析し、この改革がかつての近代的枠組みとどのように異なり、どのように異なり、どのように連続しているかを明らかにする。そして、2008年度は、「地方財政をとおした地方-中央関係の再編」と「新しい地方民主主義の動向」に着目した研究を遂行した。残念ながら、当初予定していた調査は諸般の事情からできなかったが、文献研究をとおして、(1)この国の基本となる近代的地方自治制度のもとにおける地方-中央関係が、大量の補助金が個別的に地方に投与されるなかで、どのようにかわりつつあるかを検討し、(2)さらにそのなかで登場した「新しい地方主義(New Localism)」の議論とグローバリゼーション下におけるその困難について分析した。その成果の一部は、比較法学会(2008年6月7日)、社会経済史学会(2008年9月28日)、歴史科学協議会(2008年11月15日)における諸報告のなかで提示し、参加者から貴重な意見をいただいた。
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