本研究は、イギリスにおいて現在もなお進行途中にある統治構造改革のうち、特に地方自治に関わる領域に焦点をあて、この改革が近代以降の歴史過程においていかなる意義をもつかについて実証的に検討しようとするものである。 イギリスでは、「住民自治」的性格を色濃くもつ近代的地方自治制度が1980年代にいたるまで基本的に維持されてきたが、サッチャー政権下で徹底的に解体されることとなった。その結果、都市部を中心に様々な矛盾が発生し、1997年にブレア政権が発足すると、新たな形で「住民自治」的な視点に立つ制度改革が試みられるようになっている。本研究では、こうした改革動向を実態に即して分析し、この改革がかつての近代的枠組みとどのように異なり、どのように連続しているかを明らかにする。 そして、最終年度となる2009年度は、これまでの研究で得た知見をもとに、(1)地方政府の法的構造を含む近代的地方自治制度の再措定、(2)ブラウン政権下での動向を含む現代的統治構造改革の整理、を行った上で、(3)両者の連関を「近代的地方自治制度の『解体』とら『再生』」という視角から法理論的解明を行った。結論のみ付しておけば、今日の改革のなかで、地方政府には「コミュニティ・リーダー」としてかつてない自律性が付与されたが、そこに現れた「住民自治」的諸制度は、中央政府が期待する活動遂行のために示された「お仕着せ」的な枠組みと捉えられ、したがって、近代的地方自治制度との連続面よりもむしろ断絶面が際だっているといえる。なお、これらの成果の一部は、下記に示したとおり、すでにいくつかの論文として公表している。
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