本研究課題では、近代イギリスの諷刺文学において政治的賢慮概念がどのように展開されたかを政治思想史的に考察した。その結果、(1)イギリスのオーガスタン時代は諷刺文学が栄える政治的・社会的・文化的条件がそろっていたこと、(2)諷刺とは社会的な文学様式であり、その本質は笑いを武器にした諷刺対象の道徳的・政治的矯正に他ならなかったこと、(3)J・スウィフトに代表されるこの時代の諷刺文学は、民衆の臆見や政治的知恵を文学的に表現したものであり、そこには非政治的人間の賢慮が豊かに包蔵され展開されていたことが明らかになった。
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