今年度は、全国に50ずつある地裁・家裁の所長への歴代就任者合計900名以上をリストアップして、彼らの出身大学や事務総局勤務、判検交流経験などの経歴的資源を割り出した。これらのデータを裁判所ごと、高裁管内ごと、地裁・家裁ごと、そして男女別にも目を配って、累積分析と比較分析を試みた。その結果、一口に地裁所長、家裁所長といっても、それぞれのポストには「個性」があることが明らかになった。 第一に、高裁所在地地裁所長にはどこでも、比較的優位な経歴的資源をもつ裁判官が就いていた。それがとりわけ顕著なのはもちろん東京地裁である。エリート裁判官がここを経由してさらに高裁長官に上っていく。東京ほどではないが、大阪地裁所長就任者にも類似の傾向がみられた。東京・大阪をのぞく6管内では、高裁所在地地裁所長は管内の実務裁判官の「上がり」ポスト的性格をもっていた。 第二に、8高裁管内相互の所長の異動を検討した結果、東京管内帝国主義ともよぶべき現象が析出された。裁判官は任官15年ほどで一つの高裁管内に定着する。しかし、地裁・家裁所長への就任者は東京高裁管内定着者が圧倒的なのである。それでも、前記のとおり、高裁所在地地裁所長には当該管内定着者が「孤塁」を守っている。ところが、それ以外の所長ポストには、東京管内定着者(大阪管内定着者も無視できない)が出世の一階梯として着任しているのである。 第三に、地裁専任庁と家裁専任庁の所長就任者を比較した場合、地裁専任庁所長のほうが優位な経歴的資源をもつ裁判官が就いていた。また男女別でみると、女性裁判官の所長就任者のうち家裁所長に就いた者が圧倒的であった。「女は家裁」という人事慣行が確認できた。
|