本年度の研究では、昨年度に引き続き品川区議会の議事録について各発言の点数化を進めた。昨年度研究の知見に基づき、検討対象を予算委員会での質疑に限定したため、集中的に作業を行うことが可能となった。そのため、昨年度に比べ多くの謝金を用いて協力を得、発言の評価にばらつきがないかの検証を行うこととなった。また、討議民主主義の理論的研究については、海外での理論的・実証的両面での分析枠組みの検討作業が一段落する一方で、より広い民主主義論の文脈から討議民主主義の再検討を行う傾向が見られたため、広範な分野での文献を渉猟するように努めた。討議の質指標については、提唱から数年が経過したにもかかわらず、日本国内では予想外に研究が進まず、参考となる国・自治体のデータが蓄積されないという事情がある。そのため、比較研究用のデータ収集があまり進行しなかった。本来は他の研究とデータ・知見をつき合わせるのが望ましいが、現状では本研究で他の自治体のデータ化もさらに積極的に進めなければならないだろう。他方、そのような状況下で本研究を進めることは、実証的な討議民主主義研究について研究者・学界共に海外との交流を進める際にも不可欠となる。日本での実証的な討議民主主義研究は、自治体レベルでの討議世論調査の実施に関する検討など、制度面での研究が主流となっており、討議自体の質の保証という観点からの研究は海外に比べて少ない状況が続いている。最終年度になる次年度研究では、今年度までの研究成果を踏まえて、海外へ向けて外国語で執筆された論文の発表までが作業の視野に入ってくることになる。
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