本研究は、アメリカ合衆国における「反体制」思想の系譜、特に同時多発テロ以降のブッシュ政権の政策を批判する市民運動を研究対象とし、その思想的意義について政治文化に関する理論的パースペクティブにおいて議論するものである。3年計画の初年度にあたる平成19年度においては、国内における予備的研究としてアメリカ政治における「反体制」思想に関連する重要な理念について再検討をおこなった。特にアメリカ合衆国における共和主義の観念が忠誠を要求する論理について考察した。これらは以前からの研究の一部でもあるが、現時点での概観として「アメリカ国家思想の文化的側面:その政府不信と体制信仰について」(『政治思想研究』)として学会誌に発表した。これは合衆国におけるその政治体制への強度の信頼が、各政権への拒否を含みながらも、その全体構造を補完する論理を論じたものである。 そうした理論研究をもとに、合衆国における「体制批判」のイデオロギー的現況を研究するために、8月のアメリカ政治学会年度大会時、また大統領予備選挙の渦中であった2月の二度にわたる在米研究をおこなった。本補助金によって渡米した2月の調査においては、特にニューヨークにおけるリベラル派の研究者にインタビューし、大統領選挙における利益集約がいかにアメリカ政治の利益の多元性と対立するか、という点について集中して議論をおこなった。これは前述したアメリカの「体制信仰」において、その政治構造が社会的マイノリティの利益の排除によって維持されている点を解明する際に重要な視点であると考えられる。
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