本研究は、合理的選択論の観点から、参加者自らが出資し、経営し、働くような「協同組合型のNPO」と市民参加との相互作用のメカニズムの解明を試みるものである。本研究では、分析対象として神奈川県の生活クラブ生活クラブ生協の事例を取り上げる。 本研究の目的は、合理的選択理論のアプローチを基本としつつ、進化心理学や認知社会心理学の知見を積極的に取り入れながら、生活クラブ運動グループの事例を検討することで、(1)個人のイニシアティブによる社会的サービス(集合財)の提供可能性に影響を与える制度的要因は何か、(2)また、それらの要因の中で各個人の政治活動への参加に影響を与えるメカニズムとして働いているものとは何か、を理論的かつ実証的に検討することである。 本研究のもう一つの目的は、日常的な相互作用からなる社会ネットワークとそこに埋め込まれている一連の資源がNPOの形成や発展に及ぼすメカニズムを、合理的選択論の観点から、解明することである。つまり、本研究は、NPOの形成や発展過程における集合行為のジレンマ問題(ただ乗りの問題や保証問題)の克服に、日常的な社会関係やそこに埋め込まれている一連の資源がどのような影響を与えているのか、という問題を理論的かつ実証的に明らかにすることに焦点を当てている。 平成19年度は、(1)協同組合型のNPOと関連する基礎的データを収集するとともに、(2)パネル調査としての第1回目の「社会政治意識と市民参加」に関するアンケート調査とヒアリング調査を行う。 アンケート調査においては、(1)組織内外のネットワークや互恵性の規範や相互信頼が形成されるメカニズムを明らかにし、(2)生協加入のあり方の変容がソーシャル・キャピタルの質やソーシャル・キャピタルの形成メカニズムの変化にどのような影響を及ぼしていたのか、という問題に焦点を当てることとする。 平成20年度は、前回のアンケート調査を補足するヒアリング調査を行い、平成21年度は、(パネル調査としての)第2回目のアンケート調査を実施する。この調査によって、生協加入のあり方が変わり、それに従って組合員参加の制度も変わったことがソーシャル・キャピタルの質や蓄積メカニズムの変化にどのような影響を及ぼしていたのか時系列的に分析することが可能となるであろう。平成22年度は、これまでのパネル調査の結果とヒアリング調査を総合的に分析し、その分析結果を論文や報告書としてまとめることを目指す。
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