研究目的 本研究において明らかにしようとするのは、「事実上の国家」と呼ばれる状況が形成される背景要因を歴史的に遡るほか、この問題をとりまく国際政治、地域政治の現実的な政治力学である。さらにこの問題を理論的には、極限的な擬制としての崩壊国家が存在すると同時に、実効性と実態を兼ね備えている「事実上の国家」が、国家としてみなされないという現象が生じている国際社会における諸ルール、特に国家承認をめぐる法理論や政治を改めて検討することが、その目的である。 国際会議への出席と現地調査の実施形態の立案、先行研究の検討と一部成果の公表 平成19年度は8月中旬にアメリカのオハイオ州で行われたソマリア研究の国際会議に出席した。ここでは、地域研究者との情報共有、調査上の支援にかかわるネットワーク構築を図った。これは重要な成果であった。現在、この会議において得られた各種情報をもとに平成20年度に実施を予定している「現地調査」をどのように遂行するかの計画を立てている段階である。また、既知のアメリカ在住の「ソマリランド」からのディアスポラ(「ソマリランダー」)等とのメールのやり取りを通じて、調査実施の具体的な形を模索している。平成19年度は、また研究代表者が、関連文献の精査の作業を実施した。これまで収集している資料・文献を参考西が柄、崩壊国家、失敗国家にかかわる文献のほか、国家主権、国家承認等の国際政治と国際法の領域にまたがる文献、ソマリア、あるいは近隣国の歴史書のほか、他地域の「事実上の国家」の問題(すでに独立を達成したモンテネグロ、現在進行形のコソボ、今後新たな可能性を持つ南部スーダンなど)を比較検討するための文献も併せて収集した。また、主権論とのかかわりにおけるアフリカにおける崩壊国家と「事実上の国家」についての報告を国際政治学会において口頭発表したほか、日本アフリカ学会の学会誌には本研究にかかわるアフリカの国家変容の問題について発表するなどの一部の成果の公開も積極的に行った。
|