当初、今年度は可能であれば、「ソマリランド」に関わる現地調査を実施する予定であったが、調査を実施するための諸条件か整わなかったことなどの理由により、現地調査自体を実施することはできなかった。しかし、既存の情報ネットワークを活用し、メール等で情報収集を行ったほか、関連文献が複数出版されるという幸運もあり、現地調査に代替できる実質的な研究を行うことができた。その内容は、主要な研究対象としている「ソマリランド」という地域の歴史的背景について改めてその詳細についての情報収集が可能になったほか、紛争状況にあるソマリア全体におけるその位置づけについても多角的に分析を進めることができた。さらに、国際政治学における「主権」概念の多面性の観点に注目しながら、理論的に「事実上の国家」に関する考察を進めた。そこにおいて、主権の部分的機能不全という問題点を提起する形で、通常は一体的に運用される「国家」と「政府」概念をあえて分析的に腑分けするという概念操作を、クラズナーの主権に関する議論を援用することを通じて行い、「事実上の国家」と、さらには「破綻国家」あるいは「崩壊国家」として議論される問題群にかんしてその理論的位相を示す論考を発表した。実証と理論化という両面において、格段の研究上の成果を得られる結果となった。研究を進める上で、こうした異型の国家群を研究遂行者は、仮に「国家の亜型」と読んでいるが、こうした「国家」が生成される今日的な国際政治の文脈を読み解くことが最終年度における新たな課題と位置づけられる。
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