最終年度に当たる平成22年度は、これまでの成果を取りまとめるとともに、本課題の持つ国際政治学における課題を再検討する作業を行った。事態の進展の著しいソマリアの「紛争」状況を改めて俯瞰的にとらえるととtも、これまでの動向の中に観察される「崩壊国家」状況下の社会関係に改めて焦点を当てながら、【事実上の国家】として本研究で位置づけているソマリランドの事例についての考察を加える作業を継続的に実施した。結果として、国際政治の文脈におけるその位置づけについても多角的に分析を進めることができた。さらに、国際政治学における「主権」概念の多面性の観点に注目しながら、理論的考察を進めた。そこにおいて、主権の部分的機能不全という問題点を提起する形で、通常は一体的に運用される「国家」と「政府」概念をあえて分析的に腑分けするという概念操作を、クラズナーの主権に関する議論を援用することを通じて行い、「事実上の国家」と、さらには「破綻国家」あるいは「崩壊国家」として議論される問題群に関してその理論的位相を示す昨年度の論考をさらに深める作業を実施した。実証と理論化という両面において、格段の研究上の成果を得ることができたと考えている。研究を進める上で、こうした「異型の国家」群に関して、研究遂行者は「国家の亜型」と名付けているが、こうした「国家」が生成される今日的な国際政治の文脈をその歴史的な展開の中に読み直すことが、この研究の先に開かれた新たな課題と位置づけられるものと考えている。
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