2007年度研究の目的に掲けたとおり、(1)人間の安全保障規範の形成と伝播のプロセスについてのリサーチデザインの拡充を行い、(2)地域ごとの多系的な規範の伝播プロセスの解明にとりくんだ。 前半は、(1)の先行研究を網羅的にサーベイしつつ、社会学、文化人類学の文献にも目を向けることによって、新しい分析枠組みの提示を行なった。国際政治学会(2007年10月)において研究発表を行ない、多くの方面からの関心が高いことを感じた。 (2)については、具体的にはヨーロッパと日本を中心に、事例調査を進めた。連合王国への調査(秋)によって、本領域における同地域の研究動向を把握すると同時に、ヨーロッパにおけ人間の安全保障概念の展開についての、聴き取り調査を行なった。 また、先行研究の調査を進めるうちに、まずは日本を事例研究の対象とすることに意義があるとの結論にいたったため、夏以降は日本における人間の安全保障規範の受容、再構成、国際的な規範へのフィードバックのプロセスを、聴き取り調査を重ねることで明らかにした。また、3月の渡米調査において、日本政府国連代表部の関係者への聴取を行なう予定である。本年の聴き取り対象は、政策形成プロセスに直接かかわった国会議員(元政務次官)、外務官僚、NPO理事長、国連職員などである。この結果の一部についても、前述の国際政治学会において事例としてとりあげ、研究発表を行なった。 本事例研究は、価値や規範のような従来日本政府が外交の柱として取り上げる経験のない分野において、どのようにして政策が進展したのかを解明する一つの興味深い事例となった。すなわち本規範の受容に関しては、官というよりは政治主導であり、首相のリーダーシップが重要であったこと、民間のブレーンの役割が相当程度あったこと、外務省内部でのイニシアティブもそれに比例して出てきたことなどで、これにより、外に対して規範を投影する方向性もうまれたことである。
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