本研究の目的は、昨今国際関係に見られるソフト・ガバナンスの台頭の理由を明らかにしつつ、その特徴及び有効性を理解するところにあるが、第2年度の目標は、ソフト・ガバナンスの現地調査を実施することと、企業やNGOなどの非政府組織と国際組織の相互作用の分析をすることにあった。前者に関しては、UNEP(国連環境計画)のDDP(ダム開発プロジェクト)プロセスに関与したIHA(国際水力発電協会)代表に対するインタビュー調査及びEUのETS(排出量取引制度)の形成プロセスに関与した欧州委員会環境総局と各種経営者団体及び市民社会団体の担当者へのインタビュー調査を実施できた。これらの調査結果を踏まえて、報告者は分析を行い、その成果の一部を論文として公表した。第一に、国際政治の社会分野においてソフト・ガバナンスが登揚している背景について「法化の不均等性」という視点から考察し、ソフト・ガバナンスの有効性・正統性を高める上で国際組織の役割が重要であることを改めて確認した。第二に、その重要性を確かめるために、UNEPにおけるDDPの事例を分析した。だがこの事例では、国際組織がプロセスに関与することでかえってソフト・ガバナンスの有効性が失われてしまった。聞き取り調査の結果、その原因がUNEPの自律性の低さにあったことが判明した。そこでUNEPとは対称的な、加盟国間の均質性が高く、自律性が高いEUに着目し、ソフト・ガバナンスがどのような時に有効になるのかを検討すべく、EU・ETSの形成に照準を定めて聞き取りを実施した。本年度は、この調査結果の分析を進め、上記の問いに関して理論的な考察を行うとともに、追加的な調査を実施したい。
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